ビジネスの現場では、見積書や請求書以外にも数多くの書類が飛び交います。その中でも、発行の有無が企業によって分かれやすく、役割が曖昧になりがちなのが「検収書(けんしゅうしょ)」です。
「納品書を出したのに、なぜ検収書も必要なの?」 「わざわざ紙でやり取りするのは手間がかかる」
そう感じる方も多いかもしれません。しかし、検収書は「売上の確定」や「トラブル防止」において、非常に重要な役割を担っています。
この記事では、検収書の基本的な役割から、納品書や受領書との違い、経理処理上の重要性(検収基準)、そして効率的な作成・管理方法までをわかりやすく解説します。
検収書と「納品書」「請求書」の明確な違い
ビジネスの現場では、商品の受け渡しから支払いまでに複数の書類が登場します。それぞれの役割を正しく理解していないと、トラブルの原因になります。
ここでは、特に混同しやすい「納品書」および「請求書」と、「検収書」との決定的な違いについて解説します。
検収書と「納品書」の違い
この2つの最大の違いは、「誰が」発行し、「何を」証明するかという点です。
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納品書(Delivery Note)
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発行者: 受注者(売る側)
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役割: 「注文された商品を届けました」という納品の事実を証明する。
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フェーズ: まだ中身の品質チェックは完了していない状態。あくまで「モノが移動した」証明です。
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検収書(Inspection Certificate)
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発行者: 発注者(買う側)※実務上は受注者が作成し、発注者が押印するケースも多い
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役割: 「届いた商品の種類・数量・品質に問題がないので合格とします」という受入の意思を証明する。
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フェーズ: 契約の履行が完了した状態。「これで文句はありません」という確定の証明です。
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つまり、納品書があっても「中身が壊れていた」と言われるリスクは残りますが、検収書があれば「合格」のお墨付きをもらったことになるため、その後のトラブルを防ぐことができます。
検収書と「請求書」の違い
この2つは、「仕事の完了」と「代金の請求」という密接な関係にあります。
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検収書
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焦点: 「モノ・サービス」の品質と完了。
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意味: 「仕事(契約)は正しく完了しました」という確認。
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タイミング: 請求書を発行する前に必要なステップ。
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請求書(Invoice)
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焦点: 「お金」の支払い。
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意味: 「仕事が完了したので、代金を支払ってください」という要求。
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タイミング: 検収が完了した後に発行する。
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多くの企業間取引では、「検収が完了しないと、請求書を発行できない(受け付けない)」というルールになっています。検収書は、請求書を発行するための「通行手形」のような役割を果たす重要な書類です。
【一覧表】3つの書類の役割まとめ
それぞれの違いを整理すると以下のようになります。
3つの書類の違いと役割
| 書類名 | 誰から誰へ | 証明する内容 | この書類の意味 |
|---|---|---|---|
| 納品書 | 受注者 → 発注者 | 納品の事実 | 「注文の品を届けました」 |
| 検収書 | 発注者 → 受注者 | 合格の事実 | 「中身を確認し、OKを出しました」 |
| 請求書 | 受注者 → 発注者 | 支払いの要求 | 「検収が終わったので代金をください」 |
取引の流れと書類の関係
一般的な取引フローは以下のようになります。
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【納品】 受注者が商品を届け、納品書を渡す。
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【受領】 発注者が荷物を受け取り、受領書にサインする。(※まだ中身は未確認)
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【検査】 発注者が中身を開け、数量不足や破損がないかチェックする。
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【検収】 問題がなければ、発注者が検収書を発行(またはサイン)する。
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【請求】 検収完了をもって、受注者が請求書を発行する。
このように、検収書は取引の「ゴール」を示す重要な書類なのです。
ビジネスで検収書を交わす3つのメリット
手間をかけてまで検収書を取り交わすのには、明確なメリットがあります。
トラブル防止(言った言わないの回避)
検収書がない場合、納品から数週間経ってから「数が足りない」「傷があったから返品したい」と言われるリスクがあります。 検収書にサインをもらっておけば、「その時点では品質・数量に問題がなかった」と双方が合意した証拠になります。不当な返品やクレームを防ぎ、受注者を守るための防具となります。
売上計上の基準(検収基準)になる
会計上、どのタイミングで「売上」として計上するかは非常に重要です。
多くの企業では、商品を出荷した日ではなく、相手が検収した日をもって売上とする「検収基準」を採用しています。 この場合、検収書に記載された「検収日」が売上計上日となるため、経理処理の正確な根拠資料として必要不可欠です。
3支払いのトリガーになる
企業間の取引契約では、「検収完了月の翌月末払い」といった支払いサイトが設定されることが一般的です。つまり、検収書が発行されない限り、請求書を送ることもできず、入金もされないという事態になりかねません。確実に代金を回収するためにも、検収書の授受は重要です。
検収書の書き方と必須項目
本来、検収書は「発注者(買う側)」が作成して発行するものですが、実務上は「受注者(売る側)」が納品書と一緒に検収書のフォーマットを作成して送り、発注者に押印だけしてもらうケースが多く見られます。この方が相手の手間を減らし、スムーズに回収できるからです。
検収書に必要な主な項目は以下の通りです。
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日付(検収日): 最も重要です。実際に検査を完了した日を記載します。
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宛名: 受注者の会社名・担当者名。
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発行者: 発注者の会社名・担当者名・検収印。
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取引内容: 品目、数量、単価、金額(納品書と同じ内容)。
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検収完了の文言: 「上記の通り検収いたしました」「正に受領いたしました」など。
検収書に関するよくある疑問(Q&A)
Q. 検収書に収入印紙は必要ですか?
A. 原則として不要です。 検収書は「商品等の受領事実を証明する文書」であり、金銭の受け取りを証明するものではないため、課税文書には当たりません。ただし、検収書の中に「代金受領済み」などの文言が含まれ、実質的に領収書の役割を果たす場合は印紙が必要になるケースもあります。
Q. メール(PDF)で送ってもいいですか?
A. 問題ありません。 近年はペーパーレス化が進み、PDF化した検収書をメールで送付・返信してもらうケースが増えています。ただし、電子データでやり取りした検収書は「電子取引」に該当するため、電子帳簿保存法の要件(改ざん防止措置や検索機能の確保など)に従って保存する必要があります。
Q. 相手が検収書を出してくれない時は?
A. 契約書で「みなし検収」を設定しておきましょう。 忙しい相手の場合、なかなか検収書が返ってこないことがあります。対策として、契約書や注文書に「納品後○営業日以内に異議申し立てがない場合は、検収完了とみなす」という条項(みなし検収)を入れておくことが有効です。
検収書の管理は「システム化」がおすすめな理由
検収書は、見積書や請求書に比べて管理が煩雑になりがちです。Excelや手作業で管理していると、以下のようなミスが頻発します。
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「納品書は作ったが、検収書のフォーマットを作るのを忘れた」
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「検収書は戻ってきたが、そこから請求書を起こすのを忘れていた」
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「どの案件が検収済みで、どれが未検収(売上未確定)なのか分からない」
こうした課題は、帳票管理システムを導入することで解決できます。
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SpreadOfficeなら、作成したデータ(見積・受注データ)をワンクリックで次の工程に変換できます。
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データ連携でミスなし作成 「注文書」や「納品書」のデータをもとに、ボタン一つで「検収書」を作成可能。転記ミスが起こりません。
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ステータス管理で見える化 案件ごとに「納品済み」「検収済み」「請求済み」といったステータスが自動で管理されます。「検収印はもらったのに請求し忘れていた」という請求漏れのリスクをゼロにします。
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電子印鑑・PDFメール送信 システム上で捺印し、そのままメール送信が可能。相手も確認して返信するだけなので、スムーズに検収完了まで進められます。
まとめ
検収書は、単なる確認書類ではなく、「売上の確定」と「信用の証明」を行うための重要書類です。
曖昧な管理をしていると、入金の遅れやトラブルの原因となります。
システム化して、書類の精度を上げていくことが重要です。




