「商品は確かに届けたはずなのに、いつまでも入金されない」
「納品から数ヶ月経ってから、突然作り直しを命じられた」
ビジネス現場でこうしたトラブルが絶えない原因の一つに、「検収書の不在」があります。納品書があれば十分だと思われがちですが、法務・会計の観点から見ると、検収書がない状態は「防具を持たずに戦場に立つ」ようなものです。
本記事では、検収書を省略することで発生する3つの致命的なトラブルと、その対策について解説します。
トラブル1:下請法違反のリスク(発注者側の罰則)
もし貴社が「発注者」の立場で、下請法が適用される取引を行っている場合、検収書の未発行や検収の遅延は深刻な法的リスクを招きます。
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受領拒否の禁止: 注文した物品に欠陥がないにもかかわらず、検収を遅らせて受領を拒むことは禁止されています。
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支払遅延: 検収書がないために「まだ検査中だから」と支払いを先延ばしにすると、納品日から60日以内という支払期限に抵触する恐れがあります。
公正取引委員会の調査が入った際、「いつ検査が完了し、いつ支払義務が確定したか」を証明する検収書がないことは、企業コンプライアンス上の大きな欠陥とみなされます。
トラブル2:「言った・言わない」の泥沼化と無限修正
受注者にとって最も恐ろしいのが、「検収完了=合格」の合意がないままプロジェクトが進行することです。
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後出しの修正依頼: 納品から時間が経過した後に「やはりイメージと違う」「ここがバグっている」と修正を求められた際、検収書がないと「まだ検収期間中である」と主張され、無償対応を強いられるケースがあります。
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責任の所在が不明: 検収書は、その時点での「完成」を双方が認めた証拠です。これがないと、不具合が納品前からあったものか、納品後の運用で生じたものかの切り分けができなくなります。
トラブル3:売上計上の根拠不足による「税務・会計リスク」
企業の会計には「検収基準」という考え方があります。商品が届いた日(出荷日)ではなく、相手が内容を確認して「OK」を出した日(検収日)に売上を計上するルールです。
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粉飾決算の疑い: 検収書がないのに期末に売上を計上していると、税務調査で「実態のない売上ではないか」と疑われるリスクがあります。
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キャッシュフローの悪化: 入金タイミングが「検収後○日」と契約で決まっている場合、検収書が発行されない限り、法的に支払いを督促する根拠が弱くなってしまいます。
未回収リスクを防ぐための3つの対策
これらのトラブルを防ぎ、スムーズな取引を行うためには以下の運用を徹底しましょう。
契約書に「みなし検収」条項を入れる
「納品から10日以内に書面での回答がない場合、検収を完了したものとみなす」という一文を契約書(または注文書)に盛り込みます。これにより、相手の放置による入金遅延を防げます。
検収フローをデジタル化する
紙の検収書は郵送のタイムラグや紛失のリスクがあります。クラウド型の販売管理システムを使い、Web上で承認・発行ができる仕組みを整えることで、検収の「証跡」をリアルタイムで残せます。
納品時に「検収依頼書」を同梱する
ただ納品するだけでなく、「○月○日までに検収回答をお願いします」という期限付きの依頼をセットにすることで、相手のルーチンワークの中に検収作業を組み込んでもらいます。
まとめ:検収書は「取引の完了」の線引き
検収書は単なる事務作業の紙ではありません。
「ここから先は発注者の責任ですよ」「ここから先は支払い義務が発生しますよ」という境界線を引く、極めて重要な書類です。
トラブルが起きてから後悔する前に、まずは自社の検収フローを見直す一歩を踏み出してみてください。




