ビジネスの取引において、口約束やメールだけのやり取りは、後々のトラブルの元になりがちです。そこで重要になるのが、取引の内容を明確にする「発注書」です。しかし、「書き方がわからない」「法的効力はあるの?」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
この記事では、発注書の基本的な役割から、今すぐ使えるテンプレート、そしてトラブルを未然に防ぐための注意点まで、徹底的に解説します。
発注書とは?その役割と法的効力
発注書(注文書)は、買い手(発注者)が、売り手(受注者)に対して、
「この内容で商品やサービスを注文します」という意思を伝えるために発行する書類です。
【発注書の主な役割】
- 取引内容の明確化: 発注する商品名、数量、単価、納期、支払い条件などを明確にし、双方の認識のずれを防ぎます。
- トラブルの防止: 口約束で起こりがちな「言った、言わない」のトラブルを防ぎます。
- 証拠書類: 万が一の際に、取引があったことを証明する書類として機能します。
【法的効力について】
発注書は、それ自体が契約書ではありません。
しかし、発注書を発行し、相手がそれを受領して契約が成立すると、発注書は「契約の内容を証明する証拠書類」としての法的効力を持ちます。
民法上、契約は当事者の合意のみで成立するため、発注書と受注側が発行する「発注請書(はっちゅううけしょ)」の両方が揃うと、より強固な証拠となります。
発注書のテンプレートと記載すべき項目
発注書には、取引を円滑に進めるために、必ず記載すべき項目があります。
【発注書テンプレート】
[会社名] 〒XXX-XXXX [住所] TEL: XX-XXXX-XXXX FAX: XX-XXXX-XXXX 担当:[担当者名] 発注書 発行日:令和XX年XX月XX日 [取引先の会社名] 御中 平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。 下記のとおり、発注いたします。 ---------------------------------------------------- 発注書No.:[YYYYMMDD-001] 件名:[商品・サービス名] 納期:[令和XX年XX月XX日] 納品場所:[御社、もしくは指定場所] 支払い条件:[納品月末締め、翌月末払いなど] ---------------------------------------------------- | 品名/仕様 | 数量 | 単価(税抜) | 金額(税抜) | 備考 | |---|---|---|---|---| | [品名1] | [数量] | [XXX円] | [XXX円] | [備考] | | [品名2] | [数量] | [XXX円] | [XXX円] | [備考] | | | | | | | | | | | | | | | | | 小計 | [XXX円] | | | | | 消費税 | [XXX円] | | | | | 合計 | [XXX円] | 以上、よろしくお願い申し上げます。 [会社名] [代表者名] 印
【記載項目のチェックリスト】
- 発行日: 発注書を作成した日付
- 宛先: 取引先の会社名・担当者名
- 自社情報: 自社の会社名、住所、連絡先、担当者名
- 発注書No.: 独自の管理番号(例:日付と連番など)
- 件名: 何を発注するのか明確な名称(例:システム開発委託、〇〇企画書作成など)
- 納期: 商品やサービスの納品を希望する期日
- 納品場所: 納品先が自社ではない場合、具体的な住所を記載
- 支払い条件: 請求書の支払い期日や方法(例:納品月末締め、翌月末払い、銀行振込など)
- 品名・数量・単価: 具体的な商品名、数量、単価、そして合計金額
- 押印: 法的な義務はないが、商習慣として押印することで信頼性や証拠能力を高めます。
発注書作成・送付時の注意点とリスク回避のポイント
発注書をただ作成するだけでなく、トラブルを未然に防ぐための重要な注意点がいくつかあります。
- 発注書と見積書の番号は連動させる
- 多くの企業では、見積書と発注書の番号を紐づけて管理します。これにより、どの見積もりに対する発注か、一目で分かります。
- 「発注請書」の受け取りを依頼する
- 発注書を送付したら、相手に「発注請書」を発行してもらうように依頼しましょう。両方の書類が揃うことで、契約が成立したという事実がより強固なものになります。
- 電子データでのやり取りは「タイムスタンプ」を
- メールやクラウドで発注書を送付する場合、改ざんのリスクや、いつ取引が成立したかという証明が難しくなることがあります。
タイムスタンプが付与できるツールを利用することで、電子文書の信頼性を高められます。
(これらは電子帳簿保存法でも大切なポイントです)
- メールやクラウドで発注書を送付する場合、改ざんのリスクや、いつ取引が成立したかという証明が難しくなることがあります。
- 金額は必ず「税込」と「税抜」を明記する
- 特に大きな金額の取引の場合、税抜か金額か税込金額かで認識のずれが起きることがあります。金額欄に「小計」「消費税」「合計」を設け、明記するようにしましょう。
発注書の作成・管理をより効率化したいとお考えであれば、クラウド型の受発注管理システム[スプレッドオフィス]の導入もぜひご検討ください。
発注書と電子帳簿保存法の関係
発注書と電子帳簿保存法には密接な関係があります。
特に2022年の改正以降、発注書の取り扱いが大きく変わりました。
以下に、発注書が電子帳簿保存法の対象となるケースと、その保存要件を分かりやすく解説します。
発注書は「電子取引」の対象
電子帳簿保存法は、国税関係帳簿・書類を電子的に保存するためのルールを定めた法律です。この法律の大きなポイントは、「電子取引」です。
発注書は、法律上「国税関係書類」に該当します。この発注書をメールやクラウドサービスなどを介して電子データでやり取りした場合、それは「電子取引」とみなされます。
2024年1月1日からは、電子取引で受け取った発注書は、原則として紙に印刷して保存することが認められず、電子データのまま保存することが義務化されました。
発注書の保存方法と要件
発注書の作成・受領方法によって、電子帳簿保存法における保存ルールが異なります。
「電子取引データ保存」の要件(電子でやり取りした場合)
電子データのまま保存する際は、以下の「真実性の確保」と「可視性の確保」の要件を満たす必要があります。
1. 真実性の確保(改ざん防止の措置) 以下のいずれか一つの措置が必要です。
- タイムスタンプの付与: データの受領後、速やかにタイムスタンプを付与する。
- 訂正・削除履歴が残るシステム: データの訂正や削除の履歴が確認できる、もしくは訂正・削除ができないシステムを利用する。
- 事務処理規程の備え付け: 改ざん防止のための事務処理規程を社内で作成し、それに沿って運用する。
2. 可視性の確保(検索性の確保など)
- システムの備え付け: ディスプレイ、プリンタ、関連マニュアルなどを備え付けること。
- 検索機能の確保: 「取引年月日」「取引金額」「取引先」の3つの項目で検索できるようにすること。
発注書を電子化するメリット
発注書を電子帳簿保存法に対応させることは、単なる義務履行だけではなく、以下のメリットがあります。
- 保管スペースの削減: 紙の書類を保管する物理的なスペースが不要になります。
- 検索効率の向上: 必要な書類を瞬時に見つけることができ、業務効率が向上します。
- 紛失・破損リスクの低減: データとして保存することで、紙の書類のように紛失したり破損したりするリスクが減ります。
注文書(発注書)エクセルテンプレート(A4縦)
注文書(発注書)エクセルテンプレート(A4横)
まとめ
発注書は、単なる事務手続きのための書類ではなく、自社の取引をスムーズにし、将来的なリスクを回避するための非常に重要なツールです。
この記事でご紹介したテンプレートやチェックリストを活用し、ぜひ今日から発注書の管理を見直してみてください。これにより、より安全で信頼性の高い取引を実現できるはずです。