納品書に金額を記載しない運用は、特にBtoB取引において見られるものですが、業務効率化や取引の機密保持といった目的がある一方で、法的な側面や税務上の注意点が存在します。
また、企業同士のトラブルにも発展しやすいことを念頭に本日の記事がお役に立てば幸いです。
納品書の基本構成とテンプレート見本
以下に、基本的な納品書の記載項目と、その配置の一般的な見本を示します。
| 記載エリア | 記載項目 | 配置の目安 |
| ヘッダー | タイトル(「納品書」) | 中央上部 |
| 発行情報 | 納品書番号、発行年月日 | 右上部 |
| 宛先 | 納品先の会社名・部署名 | 左上部 |
| 発行元 | 自社の情報(会社名、住所、連絡先) | 右上部または中央下部 |
| 本文 | 品名、数量、単価、金額、合計金額 | 中央の表形式 |
| 特記事項 | 備考欄、取引条件など | 中央下部 |
納品書の「必須」記載項目と書き方ガイド
納品書は法的に義務付けられていませんが、商取引の証拠として機能させるために、以下の項目は必ず記載しましょう。
タイトルと発行番号
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タイトル: 「納品書」と明確に記載します。
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納品書番号: 必須ではありませんが、発行した書類を特定し、請求書や注文書と照合するために採番ルールに則って記載しましょう。(例:NO.20251209-001)
発行年月日(納品日)
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年月日: 実際に商品やサービスを納品した日付を記載します。納品書を作成した日ではない点に注意が必要です。
宛先(納品先)
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会社名・部署名: 納品先の正式名称を記載します。「御中」を付けて敬意を表しましょう。
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(例:〇〇株式会社 御中 / 〇〇株式会社 経理部 御中)
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発行元(自社の情報)
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自社の正式名称、住所、電話番号、担当者名などを記載します。
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発行元の押印: 法的な義務はありませんが、取引の信頼性を高めるために、角印(社印)を押すことが一般的です。
取引内容(明細)
納品書の本質的な部分であり、最も正確性が求められます。
| 項目 | 記載内容のポイント |
| 品名・摘要 | 発注書に記載された名称と完全に一致させることが基本です。識別できるよう具体的に記載します。 |
| 数量 | 単位(個、セット、式、部など)を明確にして、納品した数を記載します。 |
| 単価 | 1単位あたりの価格(税抜き)を記載します。 |
| 金額 | 「単価 $\times$ 数量」の計算結果(税抜き)を記載します。 |
納品書金額がなくても問題ない?法的な側面
納品書は、法的に発行が義務付けられている書類ではありません。
法律で発行が義務付けられているのは、主に以下の書類です。
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請求書(適格請求書): 2023年10月からのインボイス制度により、消費税の仕入税額控除を受けるために必須となりました。
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領収書(受領書)
つまり、納品書はあくまで「何を、いくつ納品したか」を証明するための商習慣上の書類であり、金額の記載は必須ではありません。金額の確定は、通常は別途発行される請求書で行われます。
金額を記載しない主なメリット
納品書に金額を記載しない運用には、以下のようなメリットがあります。
経理・仕入れ担当者への配慮(部門分離)
多くの企業では、「モノの受領(納品)」を行う部署(仕入れ部門、倉庫、現場)と、「お金の支払い(経理処理)」を行う部署(経理部門)が分かれています。
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金額なしの納品書 →受領部署は「発注したものが正しく届いたか」の確認に集中できます。
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金額ありの納品書 →受領部署は「金額の確認」という経理的な作業も求められ、業務が煩雑になる可能性があります。
金額を記載しないことで、それぞれの部門が本来の業務に集中しやすくなります。
社内の価格情報漏洩リスクの低減
納品書は、商品の受け渡し時に現場担当者や倉庫担当者の目に触れる機会が多い書類です。金額を記載しないことで、仕入れ値や取引単価といった重要な機密情報が、関係のない従業員に知られるリスクを減らすことができます。
誤記載によるトラブルの回避
請求書発行前に納品書を発行する場合、金額が未確定であったり、特殊な割引や諸経費が含まれていなかったりして、納品書と最終請求書の金額が異なるケースがあります。
あらかじめ金額を記載しないことで、この金額の差異による顧客との混乱や問い合わせを避けることができます。
金額を記載しない主なデメリット
一方で、金額なしの納品書にはデメリットもあります。
顧客側の検品・照合の煩雑化
金額が記載されていないと、顧客側は請求書が届いた際に、納品書と請求書を照合する手間が増えます。
特に、納品から請求までの期間が空く場合や、取引量が多い場合は、確認作業が煩雑になります。
一部「証明書」としての機能の喪失
納品書が「検収書」や「受領書」を兼ねている場合、金額が含まれていた方が、取引の全容を証明する書類としての信頼性が高まることがあります。
税務調査時の確認作業
万が一税務調査などが入った場合、納品書に金額が記載されていなくても問題はありませんが、最終的な金額を確認するために、請求書や注文書などの他の関連書類をすべて照合する必要が生じます。
「納品書 金額なし」運用を行う際の注意点
金額を記載しない運用を円滑に行うためには、以下の点に注意しましょう。
- 事前に取引先と合意する納品書に金額がないことは、取引先にとって不便な場合もあります。この運用を採用する場合は、事前に「金額は請求書で確認してください」と取引先に合意を得ておくか、明確に伝達しておくことが重要です。
- 他の必須項目は正確に記載する金額がなくても、納品書としての基本機能は果たす必要があります。以下の項目は必ず正確に記載しましょう。
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納品書の発行日
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納品先の名称
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納品した品名、数量
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自社の名称、連絡先
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- インボイス制度に対応しないインボイス制度(適格請求書等保存方式)では、消費税額や税率ごとの合計金額などの記載が義務付けられています。
金額なしの納品書をインボイスの要件を満たす書類として使用することはできません。インボイスの要件を満たすためには、別途、適格請求書(金額入り)を必ず発行する必要があります。
納品書と領収書の違い:目的と役割を明確に理解する
納品書と領収書は、どちらも取引に関する重要な書類ですが、その発行目的と役割が根本的に異なります。この違いを理解することが、適切な書類運用に繋がります。
| 書類名 | 主な発行目的 | 役割(証明する内容) | 法的義務 | 経理上の位置づけ |
| 納品書 | 商品やサービスの納入の確認 | 何を、いくつ納品したか(納品事実) | 商習慣上の書類(原則なし) | 仕入・売上管理の根拠 |
| 領収書 | 代金の受領の確認 | 金銭の支払いが完了したこと(金銭授受事実) | あり(所得税法、法人税法等) | 経費計上(仕入税額控除)の証拠 |
証明する事実が異なる
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納品書: 「モノの移動」(商品やサービスが注文通りに提供されたこと)を証明します。
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領収書: 「お金の移動」(代金が支払われたこと)を証明します。
領収書は経費計上の証拠となる
領収書は、金銭の支払いを証明する書類であるため、企業や個人事業主が経費を計上する際の重要な証拠(会計証憑)となります。
これに対し、納品書は納品事実の証明に過ぎず、金額が記載されていたとしても、それ単体では「代金を支払った」という決定的な証明にはなりません。そのため、原則として納品書を領収書の代わりとして経費計上することはできません。
納品書兼領収書について
例外として、代金支払いが納品前に行われる取引(前払いなど)では、「納品書兼領収書」として一つの書類で両方の役割を兼ねる形式が用いられることがあります。
この場合、書類の表題を「納品書兼領収書」とし、「上記金額を正に領収いたしました」といった金銭授受の事実を明記する文言が必要です。
まとめ
「納品書 金額なし」の運用は、多くの企業で採用されており、違法ではありません。特に、社内での部門間の役割分担や、機密保持の観点から非常に有効な手段です。
しかし、円滑な取引のためには、取引先との事前の合意と、最終的な金額を確定させる適格請求書(インボイス)を別途必ず発行することが最も重要です。



