【実務解説】下請法違反を防ぐ注文書・発注書(3条書面)の作り方と発行タイミング

コラム

注文書(3条書面)は下請法遵守の要

下請法(下請代金支払遅延等防止法)は、親事業者(発注企業)がその優越的な地位を利用して、下請事業者(受注企業)に不当な取引を押し付けることを防ぐための法律です。

下請法で親事業者に課せられる4つの義務のうち、最も基本的なものが「書面交付義務」(法第3条)です。

この書面こそが、実務で一般的に「注文書」「発注書」と呼ばれるものです。親事業者は、この注文書を適切に作成・発行することで、トラブルを未然に防ぎ、法令違反のリスクを回避することができます。

本記事では、下請法に則った注文書(3条書面)の具体的な作り方と、発行するべきタイミングを解説します。

下請法の適用対象を確認する

まず、自社の取引が下請法の適用対象であるかどうかを確認します。適用されるのは、以下の「取引の種類」「資本金の基準」を両方満たす場合です。

適用される主な取引の種類

  1. 製造委託:物品の製造、加工、修理を委託すること。

  2. 修理委託:物品の修理を委託すること。

  3. 情報成果物作成委託:ソフトウェアや映像コンテンツ、デザインなどの作成を委託すること。

  4. 役務提供委託:運送、ビルメンテナンス、情報処理などのサービス提供を委託すること(建設業は除く)。

適用される資本金の基準

親事業者と下請事業者の資本金の規模によって適用基準が細かく定められています。一例として、製造委託や修理委託のケースを例示します。

委託内容 親事業者(発注側)の資本金 下請事業者(受注側)の資本金
製造・修理・役務提供 3億円超 3億円以下 または 1,000万円以下
情報成果物作成 5,000万円超 5,000万円以下 または 1,000万円以下

ポイント: 自社の取引が対象となる場合、取引開始時に必ず下請法を遵守した注文書を発行する義務が生じます。

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注文書(3条書面)の「発行タイミング」と「発行方法」

発行タイミング:委託直ちに

下請法では、親事業者は「委託をした直ちに」、以下の12項目を記載した書面(注文書)を交付しなければならないと定めています。

実務上、「直ちに」とは、下請事業者が作業を開始する前を意味します。口頭での発注や、Eメールによる曖昧な発注だけでは、書面交付義務違反となります。

発行方法:電磁的交付も可能

書面の交付は、紙の注文書だけでなく、下請事業者の承諾を得て、電子メールやFAX、またはクラウドサービスを経由したPDFファイルなどの電磁的方法による交付も認められています。

【必須】注文書に記載すべき12の法定事項

下請法を遵守するための注文書には、以下の12項目全てを明確に記載する義務があります。これらのうち一つでも欠けると「書面交付義務違反」となります。

No. 記載事項 実務上の記載例と注意点
1 親事業者及び下請事業者の名称 正式名称、代表者名、住所など。
2 委託をした日 注文書を発行し、正式に委託した年月日。
3 下請事業者の給付の内容 最も重要。何を、どのような仕様・品質で作るのかを具体的に記載(図面番号、サービス名など)。
4 下請代金の額 具体的な金額。「別途協議」などは不可。難しければ算定方法を記載。
5 支払期日 受領した日から、または役務提供開始日から60日の期間内で、かつできる限り短い期間で定める。
6 支払方法 支払いの方法(現金、銀行振込、手形など)。
7 給付の受領期日 下請事業者が納品する予定の日付。
8 受領した給付の検査完了期日 検査を行う場合は、その予定期日。
9 物品等の引取り場所 納品場所。
10 役務提供委託の場合の提供場所 サービス提供の場所。
11 給付の内容が異なる場合等の処理 納品物に不具合があった場合の返品、再委託などの対応ルール。
12 代金の算定方法や支払方法の変更があった場合の取り決め 取引途中で条件変更が生じた場合のルール。

下請法違反となる事例:注文書に関する落とし穴

注文書を交付していても、その内容や運用方法によって下請法違反となるケースがあります。

違反事例1:発注後の代金減額(不当な減額)

注文書で代金を確定させた後、「予算が合わなくなった」「他社より高かった」といった理由で、下請事業者の責に帰すべき理由なく一方的に代金を減額すること。これは最も多い違反の一つです。

違反事例2:不当な返品

納品物の瑕疵(欠陥)が確認されていない、または親事業者側の都合(売れ行き不振など)で、納品された物品を不当に返品すること。

違反事例3:支払期日の超過(支払遅延)

代金の支払期日を、納品物の受領日から60日を超えて設定すること、または期日を過ぎても支払わないこと。

違反事例4:あいまいな注文書(書面不交付)

注文書を発行していても、給付の内容や代金の額が「別途協議」「要相談」などと記載され、確定していない場合、書面交付義務を果たしたことになりません。

注文書=「公正な取引の証明」

下請法における注文書(3条書面)は、単なる発注のための事務書類ではありません。これは、親事業者が下請事業者に公正な取引条件を明示し、約束したことを証明する最重要のコンプライアンス文書です。

注文書を法定事項に基づき適切に作成し、「委託直ちに」交付する習慣を確立することが、御社を下請法違反のリスクから守る確実な一歩となります。

下請法遵守は、企業の信頼と持続的な取引関係を築くための基盤となります。

下請法(下請代金支払遅延等防止法)の要約

改めて要約しますので、より深く知りたい場合は要約をご確認ください。

下請法は、親事業者(発注側)がその優越的な地位を利用し、下請事業者(受注側)に対して不当な取引を行うことを防ぎ、公正な取引を実現するために制定された法律です。

目的と対象

項目 概要
目的 親事業者の不当な行為を規制し、下請事業者の利益を保護し、公正な取引慣行を確立する。
適用条件 「製造委託」「修理委託」「情報成果物作成委託」「役務提供委託」の4種の取引と、親事業者・下請事業者の資本金基準の両方を満たす場合に適用されます。

親事業者の主要な「4つの義務」

親事業者は、下請事業者に対して以下の4つの義務を負います。

  1. 書面交付義務(法第3条)

    • 発注に際し、「委託をした直ちに」、取引条件(給付の内容、代金の額、支払期日など)を明確に記載した注文書(3条書面)を交付しなければならない。

    • 記載すべき必須事項は12項目あります。

  2. 支払期日設定の義務(法第2条の2)

    • 下請代金の支払期日は、納品物(または役務の提供)を受領した日から60日の期間内で、かつできる限り短い期間内に定めなければならない。

  3. 書類作成・保存の義務

    • 取引に関する書類(注文書、受領書など)を作成し、2年間保存しなければならない。

  4. 遅延利息支払の義務

    • 支払期日までに代金を支払わなかった場合、遅延日数に応じた遅延利息を支払わなければならない。

親事業者の「11の禁止事項」

下請法 第4条では、親事業者が下請事業者に対して行ってはならない11種類の不公正な行為が定められています。

代金に関する禁止行為(不当な取引条件)

No. 禁止事項 具体的な行為の例
1 受領拒否 下請事業者の責めによらない理由で、委託した物品の受領を拒否すること。
2 下請代金の支払い遅延 納品物を受領した日から起算して60日の支払期日までに、下請代金を支払わないこと。
3 下請代金の減額 下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、発注時や納品後に一方的に代金を減額すること。(最も多い違反事例)
4 返品 下請事業者の責めに帰すべき理由がないのに、受領後に納品物を返品すること。
5 買いたたき 通常支払われる対価に比べて、著しく低い下請代金を不当に定めること。

不当な経済的負担の強要

No. 禁止事項 具体的な行為の例
6 購入・利用の強制 親事業者の指定する物品や役務(サービス)を、下請事業者に不当に強制して購入・利用させること。
7 不当な経済上の利益の提供要請 下請事業者の給付の内容と同種・同等のものについて、通常負担すべき額を超えて、金銭やサービスなどを提供させること。

取引条件に関する禁止行為

No. 禁止事項 具体的な行為の例
8 不当な給付内容の変更・やり直し 委託後に費用負担なしで一方的に委託内容を変更させたり、受領後に費用負担なしで不当にやり直しをさせたりすること。
9 割引困難な手形の交付 支払う手形について、支払期日までの期間が長すぎるなど、金融機関で割り引くことが困難な手形を交付すること。
10 遅延利息の支払義務の免除 支払遅延が発生した場合に、法律で定められた遅延利息の支払いを免除させるような特約を結ぶこと。

 

調査・申告に関する禁止行為

No. 禁止事項 具体的な行為の例
11 報復措置 下請事業者が、親事業者の下請法違反行為を公正取引委員会や中小企業庁に知らせたこと(申告)を理由に、取引数量を減らすなど不利益な取り扱いをすること。

 

注文書を法定事項に基づき適切に作成し、「委託直ちに」交付する習慣を確立することが、下請法違反のリスクから守る最善の方法です。
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