下請法は「知らなかった」で免れることはなく、違反した場合の重いペナルティ(勧告・罰則)だけでなく、判断に迷いがちな「個人の場合」の適用ルールについてわかりやすく解説します。
経営者や発注担当者が必ず知っておくべき「下請法違反のペナルティ(罰則・勧告)」の内容と、判断に迷う「個人の場合」の適用範囲について、最新の法改正情報(フリーランス新法)も交えて徹底解説します。
そもそも「下請法違反」とは?対象となる取引条件
下請法とは、資金力や規模の大きな「親事業者(発注側)」が、立場の弱い「下請事業者(受注側)」に対し、無理な要求や不当な扱いをすることを防ぐ法律です。
すべての取引が対象になるわけではなく、以下の「資本金の区分」と「取引内容」によって適用されるかどうかが決まります。
親事業者と下請事業者の定義(資本金区分)
下請法が適用されるかどうかは、「親事業者」と「下請事業者」の資本金の差で決まります。基本的には「大きい会社が、小さい会社(または個人)に発注する場合」に適用されます。
| 親事業者の資本金 | 下請事業者の資本金 |
| 3億円超 | 3億円以下(個人を含む) |
| 1,000万円超 ~ 3億円以下 | 1,000万円以下(個人を含む) |
つまり、資本金が1,000万円を超える法人が、それ以下の規模の事業者や個人に発注する場合、ほとんどのケースで下請法の対象となります。
対象となる4つの取引内容
以下の4種類の業務を委託する場合に適用されます。
-
製造委託: 金型、部品、製品などの製造や加工を依頼する。
-
修理委託: 機械や器具などの修理を依頼する。
-
情報成果物作成委託: プログラム、デザイン、映像、設計図などの作成を依頼する。
-
役務提供委託: 運送、倉庫保管、情報処理などのサービス提供を依頼する。
下請法違反のペナルティ!「勧告」と「罰則」の内容
下請法に違反した場合、どのようなペナルティがあるのでしょうか? ここには大きく分けて、公正取引委員会による「勧告」と、法律による「罰則」の2つがあります。
公正取引委員会による「勧告」と「社名公表」
下請法違反が見つかった場合、公正取引委員会や中小企業庁から調査が入ります。違反の事実が確定すると「勧告」という行政処分が行われます。
勧告の内容は主に以下の通りです。
-
違反行為を直ちに取りやめること
-
減額した代金を返還すること(遅延利息も含む)
-
今後違反しないための再発防止策を講じること
そして、企業にとって最大のリスクとなるのが「社名公表」です。 勧告を受けると、原則として「企業名・違反内容・勧告内容」が公正取引委員会のWebサイトなどで公表されます。
これがニュースとして報じられることも多く、「コンプライアンス違反企業」として社会的信用を失うことになります。取引停止や銀行融資への影響など、経営に甚大なダメージを与える可能性があります。
最大50万円の「罰則(罰金)」
下請法には、違反行為そのものに対する刑事罰(懲役など)はありません。しかし、行政の調査に対して非協力的だった場合には、個人と法人の両方に「50万円以下の罰金」が科される規定があります。
-
報告の命令に従わなかった場合
-
虚偽の報告をした場合
-
立入検査を拒否・妨害した場合
「バレなければいい」と調査を拒否したり隠蔽したりすると、罰金刑の対象となるため注意が必要です。
「個人の場合」の適用範囲は?発注側・受注側で解説
近年、フリーランスとの取引が増える中で、「個人との取引」における下請法の適用について混乱が生じています。 ここでは「受注側(下請け)」と「発注側(親事業者)」それぞれのケースで解説します。
受注側(下請け)が「個人の場合」
結論から言うと、下請法の対象になります。
受注者が法人格を持たない「個人事業主(フリーランス)」であっても、資本金区分における「資本金1,000万円以下の事業者」と同じ扱いになるためです。
発注側の資本金が1,000万円を超えている場合、相手が個人だからといって「口約束でいい」「支払いはいつでもいい」という理屈は通用しません。
発注側(親事業者)が「個人の場合」
結論から言うと、下請法の対象外ですが、「フリーランス新法」に注意が必要です。
発注者が個人の場合、「資本金」という概念がないため、原則として下請法の「親事業者」には該当しません。これまでは、ここが規制の抜け穴となっていました。
しかし、2024年11月に施行された「フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)」により、状況は変わりました。
発注者が個人であっても、「従業員を使用している場合」などは、下請法と同等の義務(書面の交付、60日以内の支払いなど)が課されるようになりました。 「下請法対象外=何でもあり」ではないことを肝に銘じておきましょう。
知らずにやってない?絶対NGな「禁止事項」事例
下請法には、親事業者が守るべき「4つの義務」と「11の禁止事項」があります。ここでは、特に現場で起こりやすい「うっかり違反」の事例を紹介します。
下請代金の支払遅延(60日ルール)
下請代金は、納品物を受け取った日(検査完了日ではない)から60日以内、かつあらかじめ定めた支払期日までに支払う必要があります。
-
NG例: 「月末締め翌々月末払い(約90日サイト)」にする。
-
NG例: 「手形割引が難しい長期の手形」を渡す。
下請代金の減額(歩引き・協賛金)
発注時に決めた金額を、発注後に減らすことは、たとえ下請事業者の合意があっても違法です。
-
NG例: 「振込手数料はそちら持ちで」と、勝手に手数料分を引いて振り込む。
-
NG例: 「決算セールへの協賛金」名目で、一律数%を差し引く。
-
NG例: 「端数は切り捨てでいいよね?」と数円単位をカットする。
買いたたき・受領拒否・不当返品
-
買いたたき: 通常支払われる対価に比べ、著しく低い金額を無理やり決定すること。
-
受領拒否: 納期に間に合っているのに、「商品が売れなくなった」などの理由で受け取りを拒否すること。
-
不当な返品: 商品に明らかな欠陥がないのに、受領後に返品すること。
違反を防ぐために企業がやるべき対策
下請法違反を指摘されないためには、日々の業務フローを見直すことが重要です。
発注書面(3条書面)の交付と保存
発注を行う際は、必ず具体的な業務内容、代金、納期、支払期日などを記載した書面(または電磁的記録)を交付しなければなりません。これは下請法第3条で定められた義務です。 「とりあえず電話で発注、書類は後で」はトラブルの元です。
書類の保存(5条書類)
発注から支払いまでの記録(契約書、納品書、請求書、振込記録など)を作成し、2年間保存する義務があります。
担当者の教育と意識改革
下請法違反の多くは、悪意ではなく「担当者の知識不足」や「古い商習慣」から起きています。 「昔からこうやっていた」「先輩に教わった通りにした」が通用しないことを、社内研修などで周知徹底しましょう。
下請法の抜け穴をふさぐ「フリーランス新法」とは?
2024年11月に施行された「フリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)」は、これまでの下請法では守りきれなかった小規模な取引をカバーするための新しい法律です。
下請法との最大の違いは、適用の基準が「資本金」ではなく**「従業員の有無」や「取引の相手方」**に重点が置かれている点です。
下請法とフリーランス新法の違い
下請法が「親事業者の資本金(1,000万円超など)」を基準にしているのに対し、フリーランス新法は発注事業者の資本金の額に関係なく適用されます。
| 下請法 | フリーランス新法 | |
| 対象となる発注者 | 資本金1,000万円超の法人 |
業務委託をする事業者(従業員を使用している場合など)
※資本金は問わない(個人事業主も含む) |
| 対象となる受注者 | 資本金などの基準以下の法人・個人 | 従業員を使用していない個人(フリーランス)・法人(ひとり社長) |
| 主な義務 | 書面交付、60日以内払いなど | 下請法と同様の義務 + 就業環境の整備 |
つまり、「資本金が1,000万円以下の会社」や「個人事業主(従業員あり)」が発注する場合、下請法の対象外であっても、フリーランス新法の対象になるケースが非常に多いのです。
フリーランス新法だけの「新しい義務」
フリーランス新法には、下請法にはないユニークな義務(就業環境の整備)が追加されています。発注担当者は以下の点にも配慮が必要です。
-
ハラスメント対策: セクハラ、パワハラ、マタハラなどを行わない体制整備や対応が義務化されました。
-
出産・育児・介護への配慮: 6ヶ月以上の継続契約の場合、フリーランスから「育児のため時間をずらしたい」などの申し出があった際、配慮する義務があります。
-
中途解除の予告: 6ヶ月以上の継続契約を解除する場合、原則として30日前までに予告しなければなりません。
まとめ
下請法違反は、単なる事務的なミスでは済まされず、「勧告による社名公表」という大きな経営リスクを伴います。
-
資本金1,000万円超の法人は、基本的に下請法の対象となる。
-
受注者が「個人の場合」でも、下請法の保護対象となる。
-
発注者が「個人の場合」でも、フリーランス新法によって規制される場合がある。


