2026年8月末に公表された令和9年度(2027年度)の概算要求において、中小企業のIT投資・設備投資を支えてきた2つの主要補助金の「統合・一本化」方針が示されました。
従来の「デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)」と「中小企業省力化投資補助金」が一つになり、「省力化・デジタル化・AI投資補助金」という新名称でスタートする見通しです。
「来期の補助金はどうなる?」「今使っているシステムや今後の導入計画に影響はある?」と不安に思うバックオフィス担当者や経営者の方に向けて、今回の制度改正のポイントと、今から準備しておくべき実務対応を分かりやすく整理しました。
何が変わる?2つの補助金が統合される背景とメリット
これまでの中小企業向け補助金は、「ソフトウェアはIT導入補助金」「現場の設備やロボットは省力化補助金」と窓口が分かれており、「自社はどちらに応募すべきか」の判断が難しいという課題がありました。
今回の統合により、ソフトウェア(デジタル・AI)と省力化設備(ハード)を組み合わせた一括提案・申請が可能になります。
■ 予算運用の変化:補正予算頼みから「通年化」へ
今回の概算要求では、中小機構運営費交付金として6,980億円が要求されています。
これまでの「毎年12月の補正予算成立を待ってから慌ただしく春に公募する」サイクルから、当初予算ベースで年間を通じて安定的・計画的に活用できる制度構造への転換が期待されています。
概算要求に登場する「予算の数字」をスッキリ整理
ニュースや解説記事によって「6,980億円」「4,435億円」など異なる数字が飛び交っていますが、公式発表(中小企業庁資料)に基づく正確な位置づけは以下の通りです。
| 数字 | 分類・出典 | 内容・解説 |
| 6,980億円 | 中小機構 運営費交付金(公式) | 新補助金を含む主要4事業(※1)を網羅する親予算の総額 |
| 3,746億円 | 「省力化・デジタル化・AI投資」単独(推計) | 6,980億円の内数として、統合新補助金に割り当てられる試算額 |
| 4,435億円 | 概算要求前の報道値(日経新聞等) | 報道段階における主要補助金グループの概算想定合算値 |
※1:①省力化・デジタル化・AI投資、②成長加速化、③持続化、④M&A・事業承継の4事業
最も重要なハードル「賃上げ目標」と未達時のペナルティ
新制度においても、補助金申請における「賃上げ要件」の厳格化が大きなテーマとなっています。単なる努力目標ではなく、達成できなかった場合には補助金の返還義務が生じる点に注意が必要です。
求められる主な賃上げ水準(事業計画期間3~5年)
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1人当たり給与支給総額:年平均 3.0% 〜 3.5% 以上増
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物価高動向を反映。過去に採択実績があるリピート企業は3.5%以上に基準が上がります。
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事業場内最低賃金:地域別最低賃金 + 30円〜50円以上
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社内で最も低い時給の底上げが求められます(+50円以上で審査加点)。
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2027年度からの注意点
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審査への過去実績反映: 過去の交付決定データと突き合わせ、過去の賃上げ達成状況が審査に直接影響します。
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低額案件のリピート厳格化: 過去に採択を受けた事業者は、低価格帯のツール導入であっても賃上げ計画・達成が必須(未達時返還)となる方向性です。
「社労士・税理士」などの専門家は巻き込むべき?
「賃上げ計画の計算は自社でできるか?」という疑問に対し、結論としては「申請自体は自社で可能ですが、財務・労務の事前リスク検証のために税理士・社労士への相談が推奨される」のが実務のリアルです。
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人件費増加の資金繰りチェック(税理士・会計士):
年3%以上の賃上げを3〜5年続けると、人件費は10〜15%以上増加します。「補助金はもらえたが、人件費で赤字転落した」とならない試算が必要です。
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給与支給総額の定義と就業規則(社労士):
「残業代が増えた」「賞与を削って基本給を上げた」などはトラブルの元になります。給与規定の見直しや正確な時給換算には労務プロの目が欠かせません。
バックオフィス・経営者が今からやっておくべき「準備」
2027年度の新制度スタートに向けて、企業が今から取り組むべきアクションは以下の3点です。
自社の業務データの可視化(数値化)
審査で問われるのは「ツールを入れること」ではなく、「それによって業務時間がどれだけ削減され、付加価値(売上・利益)がどう増えるか」という事業計画の精度です。日頃から見積・受注・請求などのバックオフィス業務をクラウド化し、時間やコストのデータを集計できる状態にしておくことが強力な武器になります。
現行制度での早期検討
統合後の詳細な補助率や上限額は、2026年12月下旬の予算案閣議決定〜2027年3月の通常国会審議を経て確定します。「統合まで待つ」のではなく、現在自社が要件に合う場合は、現行のIT導入補助金や省力化補助金を活用して早めにデジタル化を進めるのも有効な手です。
賃上げシミュレーションの実施
自社の現在の平均給与・最低時給をもとに、「3年後・5年後にどこまで賃上げ可能か」を税理士・社労士等と相談しながら事前に試算しておきましょう。
まとめ:業務DXと数値管理が補助金活用の第一歩
今回の補助金統合は、単なる「ツールの買い替え支援」から、「AIやデジタルを活用して生産性を劇的に上げ、賃上げを実現する経営改革支援」へとシフトしていることを物語っています。
まずは自社のバックオフィス業務(見積・請求・案件管理など)の無駄をなくし、正確な数値を把握できる基盤を整えることから始めてみてはいかがでしょうか。
(※本記事の内容は2026年8月末公表の概算要求段階の情報に基づきます。今後の国会審議や公募要領の発表により変更となる場合があります。)


